31/10/2025
ポーラ化成、MAGIQ法でエステル油分解抑制に成功~高機能・環境調和型サステナブル化粧品開発に道筋
ポーラ化成工業は、深海の極限環境からヒントを得た独自のナノ乳化技術「MAGIQ(Monodisperse nanodroplet generation in quenched hydrothermal solution)」を応用し、これまで困難とされていた化粧品原料のエステル油のナノ乳化に成功した。
高温高圧の特殊条件下でも油剤がほとんど分解しないことを実証し、植物由来原料の機能を最大限に活かせる、次世代のサステナブル化粧品開発に大きく前進した。
この成果は、同社が国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の出口茂センター長、京都大学大学院工学研究科の古賀毅教授と共同で達成したもので、研究論文は2025年9月23日付で学術誌「Journal of Colloid and Interface Science」にオンライン掲載された。
ボトムアップ方式で油滴を微細化
化粧品の品質を左右する乳化技術には、大きな油滴を物理的に砕く「トップダウン方式」が一般的だ。これに対し、本研究で用いたMAGIQは、深海熱水噴出孔の原理に着想を得た「ボトムアップ方式」を採用する。
深海熱水噴出孔では、水が臨界点(374℃、218気圧)を超える特殊な環境下にある。MAGIQ技術は、この環境を装置内で再現。油と超臨界状態の高温・高圧水を完全に混合した後、急冷しながら乳化剤を加えることで、油分子が自発的に集合し、直径50ナノメートル前後の超微細な油滴(ナノエマルション)が形成される。
熱に弱いエステル油の適用が課題
これまでの研究で、比較的熱に強い炭化水素はMAGIQでナノ乳化可能であることが確認されていた。しかし、化粧品や食品で広く使われるエステル油は、高温・高圧の水環境下では加水分解(熱分解)を起こしやすい特性があり、MAGIQの適用は難しいと考えられてきた。
研究チームはまず、分子レベルのコンピュータシミュレーションを実施。その結果、エステル油が高温・高圧の水に分子レベルで溶解する挙動を世界で初めて解明した。
この知見に基づきMAGIQ技術をエステル油に適用したところ、シミュレーションで予測された溶解温度以上で水と混合することで、透明度の高いナノエマルションの生成に成功した。
加水分解を劇的に抑制
特筆すべきは、生成したエマルションに含まれる分解生成物を定量した結果、エステル油の加水分解が予想に反して極めて低いレベル(最大100ppm程度)に抑制されていた点だ。
詳細な解析の結果、この分解抑制は2つの要因によることが判明した。1つは、熱水環境を再現した流通型装置により、油が高温にさらされる時間が10秒以下と極めて短いこと。もう1つは、臨界点近傍の高温・高圧下における水の特殊な物性により、加水分解反応そのものが抑制されることだ。
サステナブル社会の基盤技術へ
今回の研究により、MAGIQでナノ乳化できる油剤の種類が大幅に拡大し、熱に弱い植物由来のエステル油など、高付加価値な天然素材の機能を損なうことなく、化粧品へ応用することが可能となる。これは、高まる環境配慮型製品への需要に応えるものだ。
MAGIQを支える「深海インスパイアード化学」は、深海環境の物理化学現象から技術革新を目指す学際的な分野だ。この技術はすでに食品分野で事業化の実績があり、さらにプラスチック資源循環やバイオものづくりといった分野への応用も進んでいる。
ポーラ化成工業は、この深海に学んだ技術を、持続可能な社会を支える次世代の基盤技術として、今後も多方面に応用していく方針だ。
詳しくは
https://www.syogyo.jp/news/2025/10/post_042525