06/12/2025
【七十二候だより by 久栄社】 <第61候>
閉塞成冬(そらさむく ふゆとなる)
12月7日は、二十四節気では、雪がさほど多くなかった『小雪』の候から、『大雪』の候へと、節気が移ります。
全国的に冬一色となり、本格的に雪が降り始める頃。
冬型の気圧配置が強まっていく中、次第に雪が激しく降るようになり、山々は大いに雪に覆われて、平地にも降雪があります。
本格的な冬の到来を迎え、金沢の兼六園など、降雪地域の庭園では、雪の重みで庭木の枝が折れないように、順次、雪吊りが施されています。
七十二候は61候、大雪の初候、『閉塞成冬(そらさむく ふゆとなる)』の始期です。
空は厚く重く垂れこめる雲に覆われ、天地の気が塞がれて、いよいよ真冬が訪れる頃。
七十二候においては、春夏秋冬の移り変わりの中で、天空や大地の変化、天候、季節の風、変化する水の姿、虹や雷など、様々な自然現象や気象がテーマとして登場します。
この『大雪』の初候では、「空」が主題となっており、「初秋」にあたる8月下旬、『処暑』の次候、41候の『天地始粛(てんちはじめてさむし)』以来の天空の変化が表されており、「さむし」「さむく」という和の音こそ一緒ですが、天地が鎮まり収まっていく転機から3ヵ月余の時が過ぎて、冬本番の時季を迎え、天地の気の閉塞を身近に感じるに至ります。
『大雪』の節気では、続く次候・末候は、言わば動物シリーズで、次候は「熊」、末候は「鮭」が取り上げられ、自然界における冬支度や繁殖活動の情景が描かれていきます。
「閉塞(へいそく)」とは、閉じて塞ぐことですが、空は重苦しく閉ざされ、灰色の冬の雲で塞がれます。
「雪曇り」とは、真冬の時季、今にも雪が降り出しそうな重たい雲に覆われた空模様を言います。
12月上旬は、日暮れの最も早い時季でもあります。一年で最も早く夜が訪れるのは、冬至の手前、今時分です。
冬は「初冬」「仲冬」「晩冬」と「三冬」で呼ばれますが、これからは「初冬」から「仲冬」に移り変わっていきます。
凍てつくような寒さの中、生き物も活動を控え、じっと息を潜めており、辺りは深閑(しんかん)とします。
雪化粧をした山々の静謐な情景、枯木となった街路樹に寒風が吹きつける風景など、冬景色が全国に広がっていく時季です。
今回も、古典俳諧の世界から、冬の「枯野」を詠んだ俳句として、病床にて作句し芭蕉の生前最後の句となった有名な句をはじめ、江戸時代の三大俳人の句を選んでみました。
「旅に病んで 夢は枯野を かけ廻る」 松尾芭蕉
「蕭条として 石に日の入る 枯野かな」 与謝蕪村
「遠方や 枯野の小家の 灯の見ゆる」 小林一茶
雪に関しては、その状態から、淡雪や細雪、ぼたん雪やべた雪など、日常でも様々な表現や呼び方が使われますが、降雪と積雪ではまた異なる言葉があり、降雪では、乾雪(かわきゆき)として灰雪・粉雪・玉雪・綿雪の4つ、潤雪(ぬれゆき)として綿雪・濡雪・水雪の3つを挙げる分類もあるようです。
<続きは、以下の「七十二候専用ブログ」をご参照ください>
https://shichijuniko.exblog.jp/
日本画の世界では、明治画壇をリードし、日本画の近代化を牽引した第一人者とも言われる、橋本雅邦(はしもと がほう)には『雪景図』という作品があります。
橋本雅邦は、江戸末期には狩野派を学びましたが、その後、狩野派に異を唱えて、斬新な画風で自らの理想を追求しました。
一方で、諸派それぞれの長所を生かす、折衷主義を奨励しており、古典の精神にも学ぶ心持も併せ持った画家としても知られております。
『雪景図』は、日本の山中の雪景色を描いた作品であり、奥の山には雪が降り積もって真っ白であり、辺り一面が雪で覆われている中、岩崖の上の樹木のみが眼前で視界に入り、その前に霞か霧か横にたなびいている風景を表しております。
古来の水墨画のように色合いはありませんが、非常にリアルな奥行き感のある絵であり、画家の観た樹木を取り巻く世界観が表現されているように思えます。
『大雪』の候、『閉塞成冬』の時期にふさわしい構図の絵と言えるかもしれません。
これから次第に寒くなり、木枯らしも益々強まり、いよいよ冬本番を迎えます。
雪にはならないとしても、この時季に降ってくる冷たい雨は「氷雨(ひさめ)」と呼ばれ、体温を奪います。
年末に向けて、日本列島は山間部を中心に舞い降りてくる雪に次第に包まれていきます。
また、冬将軍とも呼ばれるシベリア寒気団が到来すると、日本海側を中心に大雪がもたらされることになります。
今の3ヵ月予想では、西日本や東日本は平年並みの気温が予想され、冬らしい寒さになりそうです。
大陸のシベリア高気圧が南東への張り出しを強めるため、西日本では冬型の気圧配置が強まる時期がありそうです。
西日本を中心に寒気が流れ込みやすくなり、日本海側各地の降雪量は平年並みになる予想です。
備えあれば患いなし。
突然に大雪が降ってきても対応できるように、冬の初めにあたって、衣類や備品などを確認しておきたいものです。
朝晩の冷え込み具合にも気を配りながら、体調を整えて、この時期、日が暮れるまでの大切な時間を有意義に活用しながら、年内の予定などを早めに洗い出して、段取りをしっかりとして、適宜、点検・確認を入れつつ、充実した師走の日々を送っていきましょう。
今年も、あっという間でありましたが、春夏秋冬と季節がめぐる中で、各人で思い出に残るような印象的なイベントや出来事があったのではないかと存じます。
残り一ヶ月、年頭の抱負やこれまでの経緯や進捗を振り返りながら、それぞれ良い一年へと仕上げをして、来年に繋がるように、前向きに取り組んでいきたいものです。
雪に関しては、次のような諺(ことわざ)もあります。
「わが物と 思えば軽し 笠の雪」
笠の上に積もった雪も、自分の物だと思えば軽く感じることから、幾多の苦労も、自分のためと思えば負担に感じないということのたとえです。
実は、この諺は、松尾芭蕉の代表的な門人として知られる宝井其角の次の俳句が下地になっております。
「我が雪と 思えば軽し 笠の上」
苦しいことや辛いことであっても、それが自分のためになることだと思えれば気になりません。
当時の江戸っ子は、其角の俳句から浮世の「人生訓」を導き出したようで、わかりやすいように少し形を変えて人口膾炙したようです。
年末にかけて歳を越すまでには、いろいろとストレスや苦労もあるかと思いますが、今年も前向きに取り組み、ポジティブシンキングで乗り切りたいと思う次第です。